メラトニン代謝産物であるAMKによる長期記憶形成促進作用と機序
一般的にマウスやラットは季節性が顕著でないため,季節適応の研究に適していないと考えられてきた.しかし,日長や気温が制御されているはずの飼育環境下でもマウスは毎年冬になると繁殖効率が落ちるというわれわれの経験から,マウスも潜在的には季節の変化に対して応答する能力があると考えられた.そこで,ウズラで明らかにした仕組みがマウスにおいても保存されているか否かを検討することとした.哺乳類では,眼が唯一の光受容器であり,眼で受容した光の情報は概日時計の存在する視床下部の視交叉上核を通じて松果体に伝えられることで,松果体から夜間のみ,メラトニンが分泌される.哺乳類では松果体除去により光周反応が消失し,メラトニンの投与によって短日条件下で飼育したときと同じ表現型を再現できることから,哺乳類ではメラトニンが季節繁殖の制御に必須の役割を果たしている(.しかし,哺乳類においてメラトニンがどのようにしてGnRHの季節性分泌を制御しているかは謎だった.哺乳類においてはメラトニンの受容体がPTに強く発現していることが報告されていたことから(,メラトニンがPTに作用することでTSHの分泌を制御し,PTから分泌されたTSHがDIO2/DIO3のスイッチングを制御している可能性が考えられた.そこでTSH受容体ノックアウトマウスおよびメラトニン受容体ノックアウトマウスを用いて,DIO2/DIO3のスイッチングに対するメラトニンの影響を検討した.その結果,TSH受容体およびMT1メラトニン受容体のノックアウトマウスではメラトニンによるDIO2/DIO3のスイッチングが起こらなかった.以上の結果から,哺乳類では眼で受け取った光情報がメラトニンの分泌パターンへと変換された後,メラトニンがPTのMT1メラトニン受容体に結合することで,PTからの春告げホルモンTSHの分泌を制御し,DIO2/DIO3のスイッチングが制御されることが明らかとなった().
メラトニンとは睡眠調節を司る体内時計(生体リズム)を担う脳内ホルモンの ..
以上,述べてきたように,動物の光周性の制御機構は長い間謎に包まれていたが,われわれの近年の研究により,鳥類,哺乳類,魚類の光周性を制御する情報伝達経路が明らかとなり,脊椎動物における光周性の制御機構の普遍性と多様性が見えてきた.すなわち,哺乳類では眼,鳥類では脳深部光受容器,サクラマスでは血管嚢が光情報の入力系として機能しているほか,光周性の制御中枢は鳥類,哺乳類ではPTに,サクラマスでは血管嚢に存在するなど,多様性が認められた.一方で,光周性を制御しているTSH, DIO2,甲状腺ホルモンなどの役者には普遍性が認められた().
哺乳類では,眼が唯一の光受容器官とされているが,鳥類を含む哺乳類以外の脊椎動物は松果体でも光を感知していることが知られている.しかし,鳥類では,眼や松果体を除去しても季節繁殖に影響はない(.また,墨汁を頭皮の下に注入し,光が脳深部へ届かないようにすると,長日刺激による生殖腺の発達が阻害される(.一方で,MBHの局所的な光刺激が生殖腺を発達させる(ことがわかっていた.これらのことから,眼や松果体以外にも,脳深部に光受容器が存在することが示唆されていた.脊椎動物の眼の網膜には,薄明視にかかわる桿体細胞と,明所視にかかわる錐体細胞が存在し,これらの細胞には光受容分子として機能するロドプシンや錐体オプシンといったロドプシン類がそれぞれ含まれている.これらの形態視にかかわる光受容分子に加え,最近の研究により非形態視に重要なピノプシンやVA-オプシン,概日時計の調節にかかわるメラノプシンが新たに発見された(.OPN5(オプシン5)も新規ロドプシン類としてマウスの脳などから単離されていたものの,その光応答性や機能は未知のままであった.われわれはウズラの脳におけるロドプシン類の網羅的な発現解析によって,OPN5が脳室周囲の脳脊髄液接触ニューロンに発現していることを報告した(().脳脊髄液接触ニューロンはその形態が発生段階の眼の視細胞に似ていることから,数十年前より脳深部光受容器の候補として考えられてきたため,光周性の起点となる脳深部光受容器である可能性が考えられた.そこで次に,本来光に反応しないアフリカツメガエルの卵母細胞にOPN5を強制発現させ,光応答性を検討した結果,OPN5は短波長の光に応答を示す光受容器であることが明らかになった.また,スライスパッチクランプ法による解析においてもOPN5を発現する脳脊髄液接触ニューロンは光受容能があることが示された(.さらにOPN5を発現する脳脊髄液接触ニューロンが春告げホルモンTSHが分泌されるPTに投射していること,OPN5のノックダウンにより長日刺激で誘導されるTSHの合成が抑制されることから,OPN5が鳥類における季節繁殖を制御する脳深部光受容器であることが明らかとなった().
研究成果の概要(和文):マウスをモデル動物としてメラトニンの生理学的な役割を明らかにするために、メラトニン
, が鍵遺伝子として発見された2003年当時,鳥類の研究ではゲノム情報の欠如が大きな障壁となっていた.しかし,2004年12月になると,ニワトリの野生原種と考えられている赤色野鶏のドラフトゲノムが解読されるとともに,約3万8千個の転写産物の発現量を一度に解析できるニワトリマイクロアレイが発売された.ウズラはニワトリと同じキジ目キジ科に属しており近縁なため,DNA塩基配列が高度に保存されている.そこでニワトリマイクロアレイを用いてウズラでゲノムワイドなトランスクリプトーム解析が行われ,遺伝子の発現を制御する遺伝子が探索された.短日条件にて飼育したウズラを長日条件に移行した際の時系列サンプルのマイクロアレイ解析によって,長日1日目の明期開始から14時間後に,下垂体の付け根にある下垂体隆起葉(pars tuberalis; PT)において甲状腺刺激ホルモン(thyroid stimulating hormone; TSH)βサブユニット遺伝子()の発現が誘導されることが明らかとなった(.TSHはαサブユニットとβサブユニットからなるヘテロ二量体のホルモンであるが,機能解析の結果,PTにおいて産生されたTSHがMBHに存在するTSH受容体を介して遺伝子の発現を制御することが明らかとなった.つまり,長日刺激によってPTで産生されたTSHがウズラの脳に春を知らせ,季節繁殖の開始の引き金となる「春告げホルモン」として働くことが明らかとなった().これまで甲状腺刺激ホルモンTSHはその名のとおり,甲状腺を刺激し,甲状腺ホルモンの合成,分泌を促進するホルモンであるというのが常識であった.しかしわれわれのウズラの光周性の研究から,TSHには「春告げホルモン」としての新しい機能があることが明らかとなった.また,長い間機能がわかっていなかったPTが,日長の情報を伝達する重要な中継地点であることも明らかとなった.
図1■脊椎動物の光周性を制御する情報伝達経路の共通性と多様性
本試験における無毒性量は、母動物に対しては 75 mg/kg/day、胚・胎
ウズラにおいて生殖腺の発達には必ずしも連続した明期は必要ではなく,短日条件下でも光感受相あるいは光誘導相と呼ばれる特定の位相(時間帯)に光が当たることで,ウズラは長日と認識し,生殖腺を発達させることができることが知られていた(.また,この光感受相は24時間周期で現れることから,約24時間の内因性のリズム(概日リズム)を刻む体内時計,「概日時計」の関与が示唆されていた.そこで,光感受相に光を照射したウズラと,照射していないウズラから採取したMBHを用いて,ゲノム情報の有無に関係なく研究を展開できるディファレンシャル解析が行われ,光周性を制御する鍵遺伝子が探索された.その結果,MBHの第3脳室周囲に位置する脳室上衣細胞において発現する(2型脱ヨウ素酵素)遺伝子が光照射により発現上昇するとともに,(3型脱ヨウ素酵素)遺伝子が発現減少することが明らかとなった(.遺伝子は甲状腺ホルモン活性化酵素をコードしており,甲状腺から分泌される低活性型の甲状腺ホルモンのチロキシン(thyroxine: T4)を,活性型ホルモンのトリヨードチロニン(triiodothyronine: T3)に変換する酵素である.一方,遺伝子は甲状腺ホルモン不活性化酵素をコードしており,T4, T3をそれぞれ不活性型のリバースT3, T2へと変換する.つまり長日条件下では,MBHでT3が局所的に合成されるのである.脊椎動物の生殖腺は,視床下部-下垂体-生殖腺(hypothalamus–pituitary–gonadal axis; HPG)軸によって制御されており,視床下部から分泌される性腺刺激ホルモン放出ホルモン(gonadotropin-releasing hormone; GnRH)によって,下垂体前葉から黄体形成ホルモン(luteinizing hormone; LH)と卵胞刺激ホルモン(follicle-stimulating hormone; FSH)が分泌され,生殖腺に作用することで発達する.MBHの最下部で下垂体と接している正中隆起(median eminence; ME)には,GnRHニューロンの神経終末が投射している.また,MEに位置するグリア細胞には甲状腺ホルモン受容体の発現が確認された(.甲状腺ホルモンは脳の発達や可塑性に関与することが知られているため,MBHで局所的に産生されたT3が,GnRHニューロンの形態変化を促すことでGnRHの分泌を制御している可能性が考えられた.電子顕微鏡でMEの超微細構造を検討した結果,短日条件ではGnRHニューロンの神経終末はグリア細胞によって包まれていたのに対し,長日条件ではグリア細胞の包み込みが減少し,GnRHニューロンの神経終末が下垂体門脈と隣接する基底膜に直接接していた(.また,短日条件で飼育したウズラの脳内にT3を投与したところ,これらの脳の形態変化と精巣の発達を誘起することができたことから,MBHで局所的に合成されたT3が,MEの形態を変化させ,GnRHが分泌されることで,精巣の発達が起こることが明らかとなった.つまり,春から夏にかけてMBHにおいて起こるDIO2とDIO3のスイッチングによってMBHにおいて局所的に活性型の甲状腺ホルモン(T3)の濃度が上昇することが光周性制御の鍵であることが示された().
TSHは一般的に下垂体前葉(pars distalis; PD)から分泌される糖タンパクホルモンとして古くから知られており,甲状腺に作用し,甲状腺ホルモンの合成・分泌を促すホルモンである.一方,前述したようにPT由来のTSHは脳に作用する場合に「春告げホルモン」という全く異なる機能をもつが,PTとPDから分泌された2つのTSHが身体の中で情報の混線を起こさない仕組みは謎だった.PDにあるTSH分泌細胞は甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン(thyrotropin-releasing hormone; TRH)受容体および甲状腺ホルモン受容体を発現しており,視床下部-下垂体-甲状腺(hypothalamus–pituitary–thyroid axis; HPT)軸によって制御されている(.つまりPDのTSHはTRHによって正に,甲状腺ホルモンによって負の制御を受けていることでネガティブフィードバックループを形成している.一方,PTにあるTSH分泌細胞はPDにあるTSH分泌細胞と異なり,TRH受容体,甲状腺ホルモン受容体を欠いている.またその代わり,PTのTSH分泌細胞はメラトニン受容体を密に発現しており,メラトニンによって制御されていた(.最近の研究により,PT由来のTSHは脳に作用するだけでなく,末梢血中にも分泌されていることが明らかになったが,驚いたことに末梢血中に分泌されたPTのTSHは甲状腺を刺激する能力を欠いていた(.そこで,この仕組みを明らかにするために,PDとPTのTSHの構造を検討してみたところ,両者の糖鎖修飾に違いがあることが明らかとなった.糖鎖修飾の違いは糖タンパクホルモンの半減期や生理活性に影響を及ぼすことが知られている(.たとえば,性腺刺激ホルモンであるLHは硫酸基が付加した結合型糖鎖が結合している一方,FSHはシアル酸修飾のある糖鎖が結合している.LHもFSHもパルス状に分泌されるGnRHによる制御を受けているにもかかわらず,LHのみがパルス状の分泌を示す.これは,LHに付加した結合型糖鎖の硫酸基が,肝臓で認識されると速やかに分解されるため半減期が短い一方で,FSHの結合型糖鎖にはシアル酸が付加しているため分解が遅く半減期が長いためである.PD由来のTSHには硫酸基が付加した2本鎖の結合型糖鎖が結合していたのに対し,PT由来のTSHにはシアル酸が付加した3本鎖あるいは4本鎖の糖鎖が結合していることが明らかとなった.興味深いことにPDとPT由来の2つのTSHそのものの生理活性には違いはなかった.しかし,血液中での2つのTSHの動態についてさらに検討したところ,PT由来のTSHは血液中に分泌されるとその糖鎖構造を認識する免疫グロブリンやアルブミンと複合体を形成することで血液中で活性を失い,体内でPD由来のTSHとの情報の混線を防いでいることが明らかとなった(().
[PDF] メラトニン 2.6.4 薬物動態試験の概要文 -1
ある生命現象のしくみを解き明かすには,多様な生き物の中からその研究に最適な種を選ぶことが近道である.モデル動物の代表ともいえるマウスやショウジョウバエは生物学の発展に多大な貢献してきたが,季節の変化に対して明瞭に反応しないとされてきた.一方,鳥類は高度に洗練された光周性を示すことが知られている.多くの鳥類は空を飛ぶため,非繁殖期には不要な精巣や卵巣などの生殖腺を性成熟前の未分化な状態まで退縮させ,軽量化している.一方,繁殖期には子孫を残すため繁殖状態に移行する必要がある.鳥類は繁殖期を迎えると,たった数週間で生殖腺を急速に発達させ繁殖活動に備える.この変化は,人工環境下でも日長を制御することで再現することができ,鳥類は光周性研究の優れたモデルになりうると考えられてきた(.鳥類のなかでもニワトリは昔から研究に用いられてきたが,原産地が季節の明瞭でない熱帯地域であることから明瞭な光周性を示さない.一方,ウズラは温帯である日本から朝鮮半島,中国にかけて生息する渡り鳥であるため,明瞭な光周性を示す.1960~90年代にはウズラを用いて生理学的な実験が行われ,視床下部内側基底部(mediobasal hypothalamus; MBH)の破壊実験により光周性が失われること(,長日刺激によって,細胞の活性化マーカーであるc-FosがMBHで強く発現すること(,MBHの電気刺激により性腺刺激ホルモンの分泌が促進される(ことが示されていたため,MBHが光周性の制御中枢であることが示唆されていた.
季節によって変動する環境因子には,日長,気温,降水量などが挙げられるが,多くの動物は「日長」を指標として季節の変化を感知し,その変化に適応しており,この性質は光周性(photoperiodism)と呼ばれている(.気温や降水量は猛暑,冷夏,暖冬,空梅雨など,年によってばらつきがある情報である.一方,春分,夏至,秋分,冬至は毎年同じ時期に訪れ,ばらつきの少ない情報であるため,多くの動物が日長を季節の指標としているのは合理的である.しかし,動物がいかにして日長の変化を感知しているか,その分子メカニズムは長い間謎に包まれたままであった.
の成績に対してメラトニンは明期では促進的、夜間には抑制的な影響を与えて
魚類における血中メラトニン濃度が日周リズムを示すか否かを明らかにするために,ウグイ,オイカワ,ナマズ,サクラマス,ヒラメ,マダイ,カンパチ,ブリを用いて,明暗条件下における血中メラトニン濃度を測定した。その結果,どの種においても血中メラトニン濃度は暗期に高く,明期に低い日周リズムを示すことが判明した。また,サクラマスとマダイの血中メラトニン濃度におよぼす日長の影響について検討したところ,血中メラトニン濃度の高値持続時間は暗期の長さによって規定されることが明らかになった。これらの結果から,魚類の血中メラトニン濃度は魚種にかかわらず,暗期に高く,明期に低い日周リズムを示すことが明らかになった。
メラトニン(Melatonin)分析 ヒト/ウシ/その他実験動物等・測定対象
キンギョの血中,松果体および眼球内メラトニンの動態について比較検討した。まず,眼球にメラトニンが存在することを高速液体クロマトグラフィーとラジオイムノアッセイの組み合わせにより確認した。次に,明暗条件下における血中メラトニン濃度,松果体および眼球内メラトニン含量を測定したところ,三者とも暗期に高く,明期に低い日周リズムを示すことがわかった。続いて,眼球除去,松果体除去実験を行った結果,血中メラトニン濃度の日周リズムは松果体が作り出していることが確認された。さらに,血中メラトニン濃度と眼球内メラトニン含量の日周リズムにおよぼす日長の影響を検討したところ,キンギョにおいてもメラトニンの高値持続時間は短日条件下の方が長日条件下よりも長いことがわかった。最後に,暗期の開始時から明期を延長して持続性の,また,暗期開始5時間後より急性の光照射(300,1,500lx)を行いその影響について検討した。その結果,持続性光照射により血中メラトニン濃度の日周リズムは失われたが,眼球内メラトニン含量の日周リズムは300lx照射群では振幅が小さくなったものの存続した。一方,急性光照射時には,血中メラトニン濃度は照射開始後直ちに減少し.低い値を維持した。眼球内メラトニン含量は,300lx照射群においては変化を示さなかったが,1,500lx照射群においては照射開始1時間後になってはじめて減少した。急性光照射時の血中メラトニン濃度の経時変化より計算された血中メラトニンの半減期は,300lx照射群においては11.0分,1,500lx照射群においては16.8分であった。以上の結果から,キンギョの松果体と眼球におけるメラトニン合成は互いに独立していること,血中メラトニン濃度の日周リズムは松果体が作り出していること,松果体のメラトニンリズムの方が眼球よりも光感受性が高いことが明らかになった。
以前は、動物から抽出したものものが多かったようですが、最近は植物から ..
この研究発表は下記のメディアで紹介されました。
◆9/23 産経WEST
理学研究科の寺北明久(てらきた あきひさ)教授と小柳光正(こやなぎ みつまさ)准教授らの研究グループは、魚類の松果体にある「光の波長(色)識別」と「生体リズムホルモンであるメラトニン分泌の光調節」にかかわる異なる2つの光受容タンパク質が、約3億年前に魚類の進化過程で起きた『ゲノムの二倍化』の後に分化した「双子」の関係であることを発見しました。
動物の光受容は、視覚(図Ⅰ)に関するものと、そうでないのもの=非視覚(図Ⅱ)に分類されます。今回の発見は、非視覚の光受容において、もっとも重要な分子である光受容タンパク質が遺伝子重複によって増え、進化の過程で異なる機能を獲得したことを初めて明らかにしました。ヒトを含めて動物が非視覚の光受容に関わる光受容タンパク質をたくさん持っている謎を解くカギとなる発見です。 動物における光受容のイメージ図
本内容は2015年9月15日(British Summer Time)に、イギリスの生物学専門誌であるBMC Biology(オンライン版)に掲載されました。
【雑誌名】
BMC Biology
【論文名】
Diversification of non-visual photopigment parapinopsin in spectral sensitivity for diverse pineal functions(非視覚の光受容タンパク質パラピノプシンの波長感受性における多様化は多様な松果体機能をもたらした)
【著 者】
Mitsumasa Koyanagi; Seiji Wada; Emi Kawano-Yamashita; Yuichiro Hara;
Shigehiro Kuraku; Shigeaki Kosaka; Koichi Kawakami; Satoshi Tamotsu;
Hisao Tsukamoto; Yoshinori Shichida; Akihisa Terakita
【掲載URL】
ヒトを含め動物は、複数の光受容タンパク質を持っています。ヒトの視覚に関わる光受容タンパク質の進化については、今から3000万年前に、赤色感受性の光受容タンパク質の遺伝子が遺伝子重複により増加した後、遺伝子変異により緑色感受性光受容タンパク質の遺伝子となったことが分かっています。一方、非視覚に関わる光受容タンパク質については、その遺伝子がどのような機能と関わっているのか、ほとんど分かっていません。
そこで、我々は魚類などの下等脊椎動物の松果体が、メラトニン分泌の光制御に加えて光の明暗や光の色を識別していることに注目し、モデル生物である小型魚のゼブラフィッシュにおいて、松果体のどの光受容タンパク質がメラトニン分泌の光制御に関係しているのかを調べました。分子生物学的手法、遺伝子導入個体の利用、組織化学的解析により、松果体に特異的に存在する新規光受容タンパク質の1つが、メラトニン分泌の光制御を担っていることを発見しました。この光受容タンパク質は、既に私たちのグループが同定していた松果体にある光の色識別に関わる光受容タンパク質遺伝子(パラピノプシン1、PP1)と「双子」の関係にあったため、PP2と名付けました。
PP1とPP2について、さまざまな魚類のゲノムを調べたところ、ガーという古代魚は1つのパラピノプシンしか持たないことがわかり、遺伝子の並びなどの解析と合わせて、これら2つの遺伝子はおよそ3億年前に魚類で起きた『ゲノムの二倍化』により「双子」として誕生したことが分かりました。さらに、それらの遺伝子からできるタンパク質を解析したところ、PP1が紫外(UV)光感受性であるのに対して、PP2は青色感受性であることを見出しました。すなわち、もともと全く同じだった双子の光受容タンパク質の1つは、進化の過程で異なる色の光を受容できるように変化し、それぞれが色識別とメラトニン分泌の光制御という全く異なる生理機能に関わるようになったことが明らかになりました。 ヒトは9つの光受容タンパク質の遺伝子を持ち、そのうち5つは非視覚の機能に働いていると推測されています。進化の過程で遺伝子の数が増えることにより多様化してきた非視覚に関わる光受容タンパク質は、異なる色の光をキャッチするなど、それぞれ異なる分子特性を持っています。しかし、それらの違いがどのような機能の違いを生んでいるのかは未だによく分かっていません。今回の発見は、光受容タンパク質がキャッチする光の色がUV光から青色光に変わったことが、メラトニン分泌の光制御という機能にとって重要であることを示しており、非視覚の光受容タンパク質の分子の性質と機能との関連を示す初めての例と言えます。 本研究は理化学研究所、国立遺伝学研究所、奈良女子大学、京都大学の協力と下記の科研費による資金援助を得て実施されました。
◆『単離細胞を用いた非視覚型ロドプシン類の機能多様性に関する分子生理学的解析』
2011年度~2014年度
◆『ロドプシン類の多様性とその協調的機能発現の分子生理学的解析』
2007年度~2010年度
◆『松果体で行われる色弁別の生理的役割の解明』
2010年度~2013年度
◆『視覚以外で機能するロドプシン類の分子レベルおよび神経レベルの機能解析』
2008年度~2009年度
メラトニンは体内のメラトニン受容体という部位に対して働きます。
環境要因がキンギョの血中メラトニン濃度の日周リズムにおよぼす影響について検討するために.季節,水温,および光周期の影響について調べた。まず,自然条件下で季節変化を調べたところ,明期の値は年間を通じて低かったが,暗期の値は季節変化を示し,6月,9月に高く,12月,3月に低い値を示すことが判明した。これらの変化は水温の変化と有意な相関を示したことから,実験的に水温が血中メラトニン濃度の日周リズムにおよぼす影響について,5,15,25℃と水温を変化させて調べた。その結果,光周期にかかわらず,暗期の血中メラトニン濃度は25℃>15℃>5℃の順になった。また,水温にかかわらず,血中メラトニン濃度の高値持続時間は暗期の長さによって規定されていることが判明した。これらの結果から,キンギョの血中メラトニン濃度の日周リズムは環境の光条件と水温の双方に影響を受けた季節変化を示すことが明らかになった。
メラトニンは、脊椎動物に見られるホルモン。睡眠の調節に関与します。
メラトニン(N-acetyl-5-methoxytryptamine)はウシ松果体より単離されたインドール化合物である。脊椎動物の松果体や網膜におけるメラトニンの合成は,暗期に亢進,明期に抑制され,その結果,血中メラトニン濃度も同様の動態を示すことが報告されてきた。メラトニンはこの日周リズムゆえに環境の光周期に関する情報を伝達するホルモンであると考えられており,哺乳類においては,繁殖期の決定やサーカディアンリズムの同調に重要な役割を果たしていることが知られている。しかしながら,魚類におけるメラトニン動態やメラトニンによる情報伝達機構に関する知見は乏しく,基礎的な知見をさらに積み上げていかなければならない状況にある。そこで,本研究においては,魚類におけるメラトニン合成の調節機構からメラトニン受容体による情報伝達系までを一連のプロセスとしてとらえ,総合的に研究を行った。本研究の概要は以下の通りである。
グが決まり、季節繁殖の動物ではメラトニンにより性腺が萎縮します。一方、メラトニンは光に
理学研究科の寺北明久(てらきた あきひさ)教授と小柳光正(こやなぎ みつまさ)准教授らの研究グループは、魚類の松果体にある「光の波長(色)識別」と「生体リズムホルモンであるメラトニン分泌の光調節」にかかわる異なる2つの光受容タンパク質が、約3億年前に魚類の進化過程で起きた『ゲノムの二倍化』の後に分化した「双子」の関係であることを発見しました。
動物の光受容は、視覚(図Ⅰ)に関するものと、そうでないのもの=非視覚(図Ⅱ)に分類されます。今回の発見は、非視覚の光受容において、もっとも重要な分子である光受容タンパク質が遺伝子重複によって増え、進化の過程で異なる機能を獲得したことを初めて明らかにしました。ヒトを含めて動物が非視覚の光受容に関わる光受容タンパク質をたくさん持っている謎を解くカギとなる発見です。
オレキシンはもともと動物実験から摂食活動に関係があるのではと考えられ ..
キンギョにおけるメラトニンリズムが生物時計による調節を受けているか否かを明らかにするため,恒常条件下でサーカディアンリズム(周期が約24時間の自由継続リズム)を示すかどうか調べた。キンギョにおける血中メラトニン濃度は,恒暗条件下では3日間サーカディアンリズムを示し,明暗条件下の暗期に相当する時刻に高い値を,明期に相当する時刻に低い値を示した。一方,眼球内メラトニン含量は2日間はサーカディアンリズムを示したが,3日目にはリズムは失われた。恒明条件下においては,血中メラトニン濃度は低い値を保ち,変化を示さなかったが,眼球内メラトニン含量は,恒暗条件下に比べて振幅は小さかったものの,サーカディアンリズムを示した。次に松果体の灌流培養を行ったところ,明暗条件下,および逆転した明暗条件下では,メラトニン分泌は暗期に高く,明期に低い日周リズムを示した。恒暗条件下では,周期が23.6ないし24.9時間のサーカディアンリズムを示したが,恒明条件下ではメラトニン分泌は抑制され,リズムは失われた。最後に培養時刻と光条件がキンギョ眼杯標本からのメラトニン分泌量と眼杯におけるメラトニン含量におよぼす影響を検討したところ,明期(1130hr)に眼杯標本を作成し,1200-1500hrの間培養した場合には,メラトニン放出量,メラトニン含量ともに明条件群と暗条件群の間に差は認められなかった。暗期に入る直前(1730hr)に眼杯標本を作成し,1800-2100hrの間培養した場合には,メラトニン放出量,メラトニン含量ともに,暗条件群のほうが明条件群よりも高い値を示した。また,これらの実験の明条件群,暗条件群それぞれにおいて,1800-2100hr培養群の方が,1200-1500hr培養群よりも高い値を示し,培養時刻が眼杯におけるメラトニン産生に影響をおよぼすことが判明した。これらの結果から,キンギョにおけるメラトニンリズムは環境要因のみならず内因性の生物時計による制御も受けていることが明らかになった。