緑膿菌やESBL産生菌のカバーをしたいが、カルバペネム系を避けたい場合に ..
マクロライド系抗菌薬(以下、ML薬)は、副作用が少ないこともあってよく使われていますが、耐性化が進んでいることや14員環系ML薬には他剤との相互作用が多いことから、安易な選択と漫然たる使用は好ましくありません。ML薬が第一選択となる場合(対象疾患、原因菌種など)をきちんと押さえておきましょう。また、他系統の抗菌薬が第一選択であっても、種々の条件でそれが使えないときに第二選択としてML薬が使える場合も押さえておきましょう。
ブドウ糖非発酵菌を対象に抗緑膿菌活性をスペクトルに含む抗菌薬を投与 ..
1952年に実用化された最初のML薬である14員環系のエリスロマイシン(EM)は今も使われていますが、抗菌活性や消化管吸収性がやや低く、それを改善したものとして1960年代に16員環系薬が相次いで開発されました。さらに、EMの胃酸に対する不安定性や組織移行性の低さ、抗菌活性や抗菌スペクトラムが狭いなどの弱点を克服したのが1990年代以降のニューマクロライドと称されるML薬であって、14員環系のクラリスロマイシン(CAM)、15員環系のアジスロマイシン(AZM)などがあり、今日のML薬の主流となっています。
最初に要点を3つ提示します。1. 覚えるべきフルオロキノロン系抗菌薬は3つだけ。
2. フルオロキノロン系抗菌薬が第1選択となる臨床状況はほとんどない。
3. フルオロキノロン系抗菌薬を使用する場合は「副作用」「薬物相互作用」「抗結核作用」に注意する。
・緑膿菌やアシネトバクターの標的治療にほぼ用途は絞られる。 ・ESBL産生 ..
便利であるがゆえに、フルオロキノロン系抗菌薬は、メロペネム、セフトリアキソン、経口第3世代セフェム、クラリスロマイシンなどと並んで、「とりあえず○○」としてよく使われる代表的な抗菌薬の一つだと思います。日本で使用される抗菌薬の93%は経口抗菌薬であり、そのうちの20%がフルオロキノロン系抗菌薬(内訳は54%がレボフロキサシン、21%がガレノキサシン)です[5]。レボフロキサシンの使用量は増加傾向で、2004年から2016年にかけて34%も増加しました。ちなみに、フルオロキノロン系抗菌薬の点滴静注製剤はほとんど使用されておらず、レボフロキサシンが点滴静注抗菌薬全体の3%を占める程度です[5]。経口フルオロキノロン系抗菌薬の使用量は増加傾向であり、2004年から2016年にかけてレボフロキサシンの使用量は34%も増加しました。
こうしたML薬の耐性化進行の現状に鑑みると、ML薬が第一選択となる菌種や疾患は、呼吸器領域のマイコプラズマ・ニューモニエやクラミドフィラ・ニューモニエ、消化器領域でカンピロバクター、ヘリコバクター、性感染症のクラミジア感染症、非結核性抗酸菌症、ペニシリンアレルギーのある梅毒症例ということになります。この内、ヘリコバクターではアモキシシリン(AMPC)およびプロトンポンプ阻害薬との併用が、非結核性抗酸菌症のマイコバクテリウム・アビウム コンプレックス(MAC)感染症ではエタンブトール(EB)およびリファンピシン(RFP)などとの併用が主軸になります。マイコプラズマやクラミドフィラの場合でも、細菌性病原体との混合感染が想定されるときはML薬単独ではなく、β-ラクタム系薬などとの併用が行われます。
こうした薬剤は、緑膿菌(みどりのうきん)を含むグラム陰性桿菌(かんきん)に ..
ML薬が種々の生理活性を示すことは以前からよく知られています。広義のML薬には、抗真菌薬や免疫抑制薬が存在しますが、狭義のML薬にも種々の生理作用があります。消化管運動ホルモンのモチリンに類似した消化管運動機能亢進作用と共に、免疫炎症細胞(好中球、リンパ球、マクロファージ、肥満細胞 等)を介する抗炎症作用がよく知られています。後者の端緒は、1980年代に始まったびまん性汎細気管支炎(diffuse panbronchiolitis;DPB)の例に対するML薬の少量長期投与ですが、DPBの疾患概念は1969年に日本で確立しています。DPBは40~50歳代に多く発症し、呼吸細気管支に広範な炎症が起こって、持続性の咳、大量の痰、息切れ/呼吸困難を生じ、最終的には緑膿菌感染に移行して、5年生存率が50%前後だった指定難病です。通常の1/2~1/3の量のML薬を長期投与することによってこれらの症候は緩やかに軽減・改善し、現在の5年生存率は90%以上になっています。緑膿菌に無効なML薬であっても奏効するのはもちろんその抗菌作用によるものではありません。ML薬の持つ毒素産生抑制作用、エラスターゼ等の酵素産生抑制作用、細菌が産生するバイオフィルム産生の抑制作用、バイオフィルムの破壊作用、菌の細胞付着抑制作用によると考えられていますが、さらに最近では、細菌のQuorum-sensing機構(細菌が自己の存在密度を感知して病原性の発現を調節するメカニズム)を抑制する作用も知られるようになり、ML薬の多彩な生理活性には興味が尽きません。
3つのフルオロキノロン系抗菌薬のスペクトラムの大まかなイメージと特徴は、表2と表3を参考にしてください。非常に広いスペクトラムを持った抗菌薬ですが、基本的には緑膿菌を含む グラム陰性桿菌に対する抗菌薬 であることをまず押さえてください。しかし、尿路感染症[12]や胆道系感染症[13]の原因として最も多いグラム陰性桿菌である 大腸菌の耐性化 が進んでおり、経験的治療における有用性はかなり限定的です。
緑膿菌に対して抗菌活性を有する薬剤はなく,またセファマイシン系薬のよう
フルオロキノロン系抗菌薬は、非常に便利な抗菌薬です。最もよく使用されているレボフロキサシンは、肺炎球菌、インフルエンザ菌、モラキセラ、マイコプラズマ、クラミジア、レジオネラなどの市中肺炎の原因微生物のほとんどをカバーします。また、大腸菌などの腸内細菌科細菌にも効果があるため、尿路感染症や胆道系感染症にも使用可能です(偏性嫌気性菌カバーのためメトロニダゾールの併用は必要)。さらに、緑膿菌に効果のある唯一の経口抗菌薬(日本にしかない内服のカルバペネム系抗菌薬であるテビペネムも緑膿菌には無効[1-3])でもあるため、とても重要な薬剤であり、大切に使いたいところですが、過剰な使用と耐性菌の増加が問題となっています[4]。
広域スペクトラムの抗菌薬であること、唯一緑膿菌に効果のある経口抗菌薬 であることから、病院内・外来の感染症診療において重要な抗菌薬であり、これ以上の耐性化が進まないように大切に使用すべきです。また、後述しますが、副作用・薬物相互作用が比較的多いこと、抗結核作用があることからも、乱用は避けるべき抗菌薬です(表4)。筆者の考える第1選択となりうる状況を表5にまとめました。以下、グラム陰性桿菌、グラム陽性球菌、嫌気性菌、その他、に対するフルオロキノロン系抗菌薬の効果と適応を説明していきます。
2011-06-24 - 多剤耐性緑膿菌感染症とは · 個人情報保護方針 · 利用規約.
▲図3.アジスロマイシンによる緑膿菌のクオラムセンシング機構に対する抑制効果
A:アジスロマイシンのHSL抑制効果
B:アジスロマイシンのrhlAB遺伝子とエラスターゼの抑制効果
アジスロマイシンを緑膿菌の培養液に加えるとHSL量が低下し、クオラムセンシング機構に関連する遺伝子を抑制して、病原因子の一つであるエラスターゼの産生を抑制します。また、この時に外来性にautoinducerを添加すると、部分的に遺伝子とエラスターゼの発現が回復しており、アジスロマイシンの抑制効果が確認されています。このことは病原細菌が生残するものの、病原因子を発現できない新たな感染症治療薬の開発戦略を提供することになりました。つまり、これまで感染症治療薬といえば原因菌に対しての抗菌作用に注目してスクリーニングしてきたのですが、病原性の発現制御による新たな治療薬の可能性を示したことで注目されます。
・呼吸器感染症の患者を多く診察するため、緑膿菌を含めて幅広い菌種に効果 ..
また、同じフルオロキノロン系抗菌薬でも、GNRに対する感受性率や効果の差があるため(シプロフロキサシン≧レボフロキサシン>モキシフロキサシン)、GNRを対象としている状況 では、原則として最も効果が期待できる シプロフロキサシン を選択します[14,15]。特に緑膿菌への効果は、シプロフロキサシンが最も優れていると考えられています。一方、モキシフロキサシンは効果が期待できないため、緑膿菌を考慮する状況で使用してはいけません[14,16-19]。
ラ属,インフルエンザ菌,緑膿菌等による呼吸器感染症に対する有効率
大腸菌のフルオロキノロン耐性率が高いこと、副作用・薬物相互作用など(後述)の欠点があるため、入院症例においてβラクタム系抗菌薬が使用できる状況であれば、そちらを優先して使用します。そのため、フルオロキノロン系抗菌薬を、入院が必要となる市中感染症や院内感染症の初期治療として選択することはほとんどありません。
ストレプトマイシン,フラジオマイシン,およびカナマイシンは緑膿菌(P.
▲図2.緑膿菌におけるクオラムセンシング機構の基本構造⁴⁾
緑膿菌の持つI遺伝子は、autoinducer合成酵素によりホモセリンラクトン(HSL)と呼ばれるホルモン様のautoinducerを合成します。HSLは細菌外膜を自由に通過できる分子で、環境中の細菌濃度が低い場合は希釈され生物活性を示しません。
ところが、緑膿菌の増殖が進むと菌体内外のHSL濃度が高まり、R-遺伝子産物(転写活性化因子)の結合が加速します。この複合体が標的遺伝子の転写制御領域に結合して、各種の病原因子な遺伝子の発現を促進することになります。その結果、菌体毒素の産生を抑制したり、バイオフイルムの産生を抑制したり、菌の細胞への付着を抑制することになるのです⁴⁾。また、HSLは生体細胞に対しても重要なシグナルを送り、IL-8産生を誘導したり、TNF-αやIL-12の産生を抑制することも報告されています。このような緑膿菌の病原性発現に関与するクロラムセンシング機構に対して、15員環マクロライドであるアジスロマイシンが抑制効果を示すことが知られています(図3)⁵⁾。
・乳酸菌よりビフィズス菌より優れている(緑膿菌など)と説明を受けた。
青カビから分離された天然抗生物質です。
スペクトラムは狭域ですが、レンサ球菌・髄膜炎菌への強力な活性を持つ「切れ味のよい」抗菌薬です。
半減期が短いため、数時間ごとの点滴もしくは持続点滴で投与します。また、欧米では梅毒治療の第一選択であった筋注用製剤が2021年に日本でも薬事承認され、使用できるようになりました。
わが国では、1970 年に緑膿菌に有効な抗菌薬としてゲンタマイシン(GM)が認可された。
入院患者において、あえてフルオロキノロンを選択する状況は、重度のβラクタムアレルギーがある場合です。この状況でのGNRカバーは、感染臓器が何であれ(尿路感染症、腹腔内感染症、カテーテル関連血流感染症)、原則シプロフロキサシンを選択します。代替薬としてはアズトレオナムとアミノグリコシド系抗菌薬が挙げられるので、院内アンチバイオグラムや感染臓器を考慮して使い分けます。例えば、尿路感染症以外で、アミノグリコシド単剤を選択することはありません[20]。状態が安定し経口摂取が可能であれば、bioavailabilityが良い薬剤のため、内服薬に変更することが可能です。
クラリスロマイシン(CAM)、15員環系のアジスロマイシン(AZM)など ..
これは消化管蠕動ホルモンであるモチリンのアゴニストとして作用することによります。このことからエリスロマイシンとその誘導体をモチリン受容体作動薬(モチライド)と称されることがあります。モチライドとしてのエリスロマイシンは、感染症治療に用いられる用量より少量で十二指腸平滑筋のモチリン受容体に結合し腸管蠕動運動を起こすとされています。またエリスロマイシンは難治性である慢性のびまん性汎細気管支炎に有効であることが知られています。
この病気は、肺胞に繋がる気管の末端である呼吸細気管支を中心に慢性の炎症を起こす病気で、発症の詳しい原因は分かっておらず、治療法も確立していませんでした。1987年に日本の医師が理由は分かりませんがエリスロマイシンを少量長期投与することで症状が改善することを報告し注目されました。当初は学会発表も不評で無益な治療と批判を浴びたようでしたが、追試でもこの治療法の有効性が確認されました。この作用は本来の抗菌作用ではなく、慢性気道炎症を取り巻く免疫炎症細胞を介する抗炎症作用を誘導することで、好中球の血管内皮への接着を抑制したり、IL-8の遊離を阻害することによるとされています。現在では気道炎症の改善を目的に、マクロライドの少量長期療法(半年から2年以上服用)が一般的な治療法となっています。一人の医師の奇想天外な治療法が難病に一筋の光明を与えた事例として大変興味深く思われました。
さらにマクロライドの細菌に対する作用で注目されるのは、本来抗菌作用を示さない緑膿菌に対して低濃度の接触により、病原性の発現を制御することです。これはクオラムセンシング(Quoram sensing)機構と呼ばれ、生体内で緑膿菌が自らの数が優位になったということを感知して、病原因子の発現を一斉に開始するシステムになります(図2)。
[PDF] 抗菌薬のエスカレーション療法とデ・エスカレーション療法
アンピシリンの内服版といえる抗菌薬です。
アンピシリンの経口薬と比べて経口吸収率が高く、内服の際は通常はAMPCを選択します。溶連菌による咽頭炎・歯科処置の術前投薬・梅毒の治療などに適応します。
【ミニレビュー】フルオロキノロン系抗菌薬 KANSEN JOURNAL
1つ目は、レジオネラ肺炎の治療です。これは唯一第1選択としてフルオロキノロン系抗菌薬を選択できる状況だと思われます。軽症でない限り点滴静注薬で治療を開始するため、点滴静注製剤のあるレボフロキサシンまたはシプロフロキサシが選択肢となります。市中肺炎の治療を行う場合、肺炎球菌もカバーできる抗菌薬を選択するため、レボフロキサシンを使用することが多いと思います[21,22]。効果を比較したランダム化比較試験はありませんが、アジスロマイシンは同等の効果が期待できると考えられており、こちらも第1選択薬として使用可能です[23]。
マクロライド系抗生物質の多機能性 | EDUONE MEDIA
2つ目は、緑膿菌または耐性傾向の強い腸内細菌科細菌による重症感染症における経験的治療です。院内アンチバイオグラムやその患者の耐性菌検出歴を参考に、βラクタム系抗菌薬と、シプロフロキサシンまたはアミノグリコシド系抗菌薬の併用が検討されます。例えば、院内肺炎・人工呼吸器肺炎、shockを呈する発熱性好中球減少症[6,24]が該当します。
14員環マクロライドとしてはエリスロマイシンのほか、クラリスロマイシンや ..
▲図1.エリスロマイシンAの構造式
14員環マクロライドとしてはエリスロマイシンのほか、クラリスロマイシンやロキシスロマイシンなどがあり、15員環マクロライドとしてはアジスロマイシン、ツラスロマイシン、ガミスロマイシンなどが、16員環としてスピラマイシン、タイロシン、チルミコシン、ミロサマイシンなどが知られています。
一般的にマクロライドは肺への移行性が良いことから主に呼吸器感染症の治療薬として使用されており、主にブドウ球菌などのグラム陽性菌やマイコプラズマ、クラミジアなどのほか、ヘモフィルスやカンピロバクターなどの一部のグラム陰性菌に対して抗菌力を示します。その機序は、細菌のリボソームの50Sサブユニットに選択的に結合し、ペプチド転移反応を阻害することにより、タンパク質合成を阻害することによります。また、リンコマイシンやクリンダマイシンなどのリンコマイシン系抗生物質は、マクロライドと化学構造はまったく異なるものの、作用部位及び作用機序はマクロライドと同様で、リボゾームの 50Sサブユニットに結合してペプチド鎖の伸長を阻害するため、マクロライドとの交差耐性や作用部位の競合が認められ、作用部位が同じストレプトグラミン系と合わせて、Macrolide-Lincosamide-Streptogramin B class(MLS)とも称されています。
一方、マクロライドは先に述べた微生物に対して抗菌力を示すほか、様々な機能を有していることが知られています²⁾。例えばエリスロマイシンは抗菌作用以外にも消化管運動機能亢進作用を示すことです (表1) ³⁾。